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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)54号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二 原告主張の認定判断の誤り第1点について

1 成立に争いのない甲第二号証によれば、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の欄には、後記(一)ないし(七)の記載が、図面の簡単な説明の欄には(八)の記載が、本件特許願願書に添附された図面(別紙本件発明図面)には(九)の記載があること及び右(四)ないし(六)及び(八)は実施例による説明を含むものであることが認められる。

(一) 本発明は、……(中略)……緑化工事における省力化、工期の短縮化が計れ、現場条件に応じた完全な緑化が提供できるものである。(甲第二号証一頁1欄二八行から三一行まで。)

(二) 現在の緑化工事において一番多用されている工法は、フアイバー種子吹付工法であるが、その主たる要因はすぐれた施工性にある。この施工性すなわち労務の省力化と工期の短縮は土木工事におけるネツトワークにおいて重要な問題であるが完全な工法でなければ意味がない。この意味でフアイバー種子吹付工法は土砂扞止能力等より考えて、完全な緑化工法となり得ない為他の各種緑化工法が試みられているが、労務の省力化と工期の短縮は計られていない。又、緑化工事を行う現場を見ると、一つの法面でも、法面上部は肥沃な土壌であるが、中間部以下は岩質であるとか、全んどの土壌は中性土壌であるが、一部分は酸性土壌であるなど条件がまちまちである。このような現場であつても部分的に工法を変更することは、工事費、工期等の面より困難である為、画一的な工法で行われているのが現状である。(甲第二号証一頁1欄三一行から2欄一三行まで。)

(三) 本発明は以上の従来工法の欠点に鑑み発明されたものでその目的とするところは、労務を省力化して、安価に、工期を短くできる緑化工法を、網状体に植生材料の収容部が設けられてなる植生用網状体によつて提供することにある。(甲第二号証一頁2欄一四行から一八行まで。)

(四) 本発明の植生用網状体に使用される網状体は、法面の起伏になじみかつ土砂扞止能力を有する程度の強度があれば、植物性、化学性、金属性のいずれの材質のものでもよい。(甲第二号証一頁2欄二一行から二四行まで。)

(五) 植生材料9とは、種子、肥料、保水剤、土壌改良剤等植物の成長に直接及び間接的に有益な作用をする材料のことであり、これらを一種もしくは二種以上組合わせて袋体に詰めるか圧縮プレスした棒状体とし、第4図に示す如く収容部3に収容するのである。(甲第二号証二頁3欄九行から一四行まで。)

(六) 本発明の植生用網状体に植生材料を収容して法面に張設したところを示すのが第7図である。(甲第二号証二頁3欄二五行から4欄一行まで。)

(七) 本発明は以上の如く、・・・(中略)・・・現場条件に合わせてセツトされた植生材料を収容した植生用網状体を単に張設するのみで落石防止等土砂扞止効果を有すると共に、植生物は現場の植生困難条件を克服して旺盛に成育できる。従つて極めて省力的で、安価にかつ工期を短縮した完全な緑化による法面保護工法が提供できた。(甲第二号証二頁4欄二行から一二行まで。)

(八) 第7図は植生材料を収容した植生用網状体を張設したところを示す断面図。(甲第二号証二頁4欄一八行から二〇行まで。)

(九) 図面中の第7図には、植生材料を収容した植生用網状体がその上部を法面上端の平坦部に杭状のもので固定され、法面下端まで張設された状況が断面図で図示されている。(甲第二号証三頁第7図。別紙本件発明図面第7図。)

2 右1認定の事実によれば、本件発明の植生用網状体は、土構造物の法面を保護し安定させる法面保護工法の一種である緑化による法面保護工法(植生工法)に用いられるものであり、法面に種子、肥料、保水剤、土壌改良剤等植生材料を収容した植生用網状体を張設することにより、植生物が植生困難条件を克服して法面に旺盛に成育できるようにし、成育した植生物により法面を保護しようとすると共に、法面の起伏になじみかつ土砂扞止能力を有する程度の強度のある材料からなる植生用網状体を法面に張設することにより、落石を防止するなど土砂扞止を計ることを目的とし、これを達成する効果を有するものであることが認められる。

3(一) 第二引用例に、繊維片の一側縁に幅方向に延びる袋状部を形成し、袋状部の内周面には綿のような吸水性が良好な包覆片を層着し、同包覆片に囲繞された空間(本件発明の収容部に相当)に有機物、種子の配合物(本件発明の植生材料に相当)を容れた法面等を保護する土羽帯が記載されている旨の本件審決の認定事実は原告も認めるところである。

(二) 他方、成立に争いのない甲第五号証によれば、第二引用例は、名称を「土羽帯」とする考案についての実公昭四四―二六七七一号実用新案出願公告公報であること及び右実用新案登録願願書に添附された明細書には後記、(1)ないし(4)のとおり(別紙第二引用例図面参照)、右実用新案登録願願書に添附された図面(別紙第二引用例図面)には(5)のとおりの記載があることが認められる。

(1) 3(一)記載の土羽帯の繊維片1は肥料要素を含浸させたものであり、その一側縁に幅方向に延びる袋状部1aを形成した残部を控片1bとしたものである。(甲第五号証一頁1欄一六行から二二行まで、同1欄三七行から2欄三行まで、同2欄三〇行から三五行まで。)

(2) 同土羽帯を盛土、切取等の法面にその深部に向かつて傾斜するように前記控片1bを指向させ前記袋帯1aの前縁を盛土等の前記法面上に僅かに露出させまたは同法面より僅かに内方に位置するように等間隔に且つ等高線状に上下方向に亘つて埋設させる。(甲第五号証一頁2欄三行から八行まで。)

(3) 右のように埋設させることにより、包覆片2は土壌中の水分を充分補集保持し、且つ同包覆片2に囲まれた有機物3aも水分を含有するので、同有機物3aと混合された種子3bは水分を吸収し、しかも同種子3bはその外周に肥料分を含有した繊維片1と直接に接触しないように前記包覆片2によつて隔離されているために肥料やけによる種子発芽障害を起こすことなく健全に発芽する。(甲第五号証一頁2欄八行から一五行まで。)

(4) 前記発芽した植生物は前記包覆片2及び繊維片1の袋状部1aを突き抜けて地上に出ることができ、且つ前記繊維片1の肥料分を充分に吸収して法面上に繁茂し、さらにまた前記袋状部1aと一体に控片1bが設けられているために本土羽帯は土壌中に碇止されて流亡、脱離を防止することができ、かくして盛土法面等を充分に保護することができる。(甲第五号証一頁2欄一九行から二六行まで。)

(5) 図面中の第3図には、法面に右(2)のように埋設された土羽帯から植物が成育している状況が断面図により図示されている。

4 右3の事実によれば、第二引用例記載の土羽帯は、盛土、切取等の土構造物の法面を保護し安定させる法面保護工法の一種である緑化による法面保護工法(植生工法)に用いられるものであり、一側縁に包覆片に囲繞された空間(収容部)に有機物、種子の配合物(植生材料)を収容した袋状部を形成し、残部を控片とした土羽帯を、3(二)(2)記載の方法で法面に埋設することにより、土羽帯が流亡、脱離することを防止し、種子を発芽成育させて法面上に繁茂させ、繁茂した植生物により盛土法面等を保護しようとすることを目的とし、これを達成する効果を有するものであることが認められるが、第二引用例記載の土羽帯自体が、落石を防止するなど土砂扞止を計ることを目的とし、これを達成する効果を有するものであることを認めるに足りる証拠はない。

5 右1ないし4の事実によれば、第二引用例記載の土羽帯は、それ自体により法面の落石防止、砂扞止等はなし得ないものであるのに対し、本件発明は張設するのみで落石防止、砂扞止等の効果を有する差異があることは、原告主張のとおりである。しかし、そのような差異があるにせよ、土構造物の法面を保護し安定させる法面保護工法の一種である緑化による法面保護工法(植生工法)に用いられるもので、収容部に植生材料を収容したものを法面に設置するためのものである点で、本件発明の植生用網状体と第二引用例記載の土羽帯は共通するものであることも右1ないし4の事実から明らかであり、そのことからすれば、両者はその属する技術分野を同じくするものと認めることができる。

両者が同一の技術分野に属するものであるとの本件審決の認定判断に誤りはなく、原告主張の認定判断の誤り第1点は理由がない。

三 原告主張の認定判断の誤り第2点について

前記二3(二)認定の事実によれば、第二引用例記載の土羽帯の繊維片1には肥料要素を含浸させてあることが認められ、これに対し、本件発明の網状体に肥料を含浸させてあることを認めるに足りる証拠はない。したがつて、その点において、第二引用例記載の土羽帯と本件発明には差異があるということができるが、そのような差異があつても、土構造物の法面を保護し安定させる法面保護工法の一種である緑化による法面保護工法(植生工法)に用いられるもので、収容部に植生材料を収容したものを法面に設置するためのものである点で、本件発明の植生用網状体と第二引用例記載の土羽帯は共通するものであり、そのことからすれば、両者はその属する技術分野を同じくするものと認めることができることは、前記二5に判断したとおりであり、両者が同一の技術分野に属するものであるとの本件審決の認定判断が誤認であるとの原告の主張は、採用できない。

また、本件審決が、網状体に植生材料を保持せしめるために、本件発明では、収容部が設けられているのに対し、第一引用例記載のものではミシン掛け又は接着剤をもつて、直接取り付けているという相違点、即ち、網状体に植生材料を保持せしめるための構成の相違点について、第一引用例記載のものにおいて、植生材料をミシン掛け又は接着剤をもつて取り付けるかわりに、第二引用例記載のものの収容部を設けて本件発明のような構成とすることは、当業技術者が容易に推考できると認定判断しているものであることは、当事者間に争いがない請求の原因三3(二)及び(三)から明らかである。

しかし、第二引用例記載の土羽帯の繊維片1に肥料要素が含浸させてあるか否かは、網状帯に植生材料を保持せしめるための構成には関係がないことであり、当業技術者において第一引用例記載のものの植生材料をミシン掛け又は接着剤をもつて取り付けるかわりに、第二引用例記載のものの収容部を設けるに当たつて、必要に応じ繊維片1に肥料要素を含浸させないものとすることは被告の、主張するように単なる設計上の変更に過ぎず、容易に推考しうる範囲内のことであり、前記のような差異を理由に本件審決の認定判断を誤りとする原告の主張は採用できない。

四 よつて、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は理由がないから棄却することとする。

〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。

網状体に、植生材料の収容部が設けられてなる植生用網状体。

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